このたび、五和保育園のPTA講演会に講師として呼んでいただき、「子どもたちに豊かな体験を!」という題でお話しさせていただきました!
子どもたちに豊かな体験を!
自己紹介
私は五和小学区で民間の学童保育「放課後ひだまり教室」を運営している松浦 静治と申します。5年前までは小学校や中学校の教員を約20年間しておりましたが、「学校だけで子どもを育てるには限界がある。地域で子どもを育てる仕組みを作りたい」と思って44歳で早期退職をして、今の活動をしています。このたびは、五和保育園のPTA主催の講演会にお招きいただきまして、皆様の子育てに参考になるお話ができればと思って来させていただきました。私には娘が2人いますが、二人とも五和保育園にお世話になりましたので、御恩返しができたらいいなとも思っております。よろしくお願いします。
みなさんはご自分のお子さんに、どんな子どもに育って欲しいですか?
「優しくて思いやりのある子」「自分らしく、のびのびとしている子」「健康で、生活に困らない子」あるいは「生きているだけでまるもうけ」という方もいらっしゃるかもしれません。とてもいいですよね。大きな視点から見れば、みなさん大きな差異はないかもしれません。しかし、各論となると、ご家庭によって考え方が違ってくると思います。
習い事は何をさせますか?習字?英語?スポ少?
※2分 話し合う時間
学校のテストは何点くらいとって欲しいですか?100点満点中、毎回40点くらいだったら心配ですか?60点くらいだったらいいですか?やっぱり80点くらいはとって欲しいですか?あるいはテストの点数は気にしませんか?
※2分 話し合う時間
ゲームやYouTubeなどの動画視聴はどうされます?無制限ですか?1日1時間くらい?
※2分 話し合う時間
子どもたちに豊かな体験を
先ほど、私は約20年間、小中学校の教員をしてきたというお話をしましたが、その経験から、今日、皆様にお伝えしたいのは「どうか、子どもたちに豊かな体験をさせて欲しい」というお話です。
学校では「体験」が減っている
今、学校から「体験的な活動」が減ってきているということをご存知でしょうか?
例えば「遠足」を取りやめた学校が多いということをご存知でしょうか?「遠足」は学校の近くの公園やお城の跡、名所に行くことで郷土愛を育てる大切な行事だったと思っています。
「運動会」は、以前はお弁当を食べて午後までやっていた学校がほとんどでしたが、午前だけで終わる学校も増えてきました。全員リレーやダンスなどの練習を通して学級のみんなの結束を高めることを目指していましたが、玉入れや綱引き、棒取り合戦などの運が勝敗を左右するような種目が多くなってしまいました。
「自然体験教室」でキャンプをしたという経験がある方はいっらっしゃいますか?テントを張って、飯盒でご飯を炊いて、カレーを作ってとかは、今ではイノシシなどの野生動物が出たら危険ではないか、屋外で調理をして衛生的に大丈夫か、などの理由でやる学校がほとんどなくなりました。
島田市内の他の学校の子たちと交流する機会だった「陸上大会」や「音楽交歓会」も、指導する先生方の負担が大きいなどという理由から、取りやめになりました。
スポーツ少年団は子どもの選択肢が少ない
スポーツ少年団は、運動をして健康的な体をつくるのには、大変有効です。しかし、日本のスポーツ少年団は小学生時代から競技を固定してしまうことに課題があります。サッカーのスポ少に入っている子はサッカーばかり、野球のスポ少に入っている子は野球ばかり、バスケのスポ少に入っている子はバスケばかりになっていないでしょうか。私は、小学生時代は、もっと多様な競技にふれて、中学生くらいになったら自分が好きで打ち込みたい競技を選んでいける仕組みの方がいいと思っています。
中学や高校の部活動もいずれはなくなる
中学や高校の部活動を地域移行するということが進められています。しかし、地域でやるとなるとこれまでのように無料で、というのは難しいかもしれません。有料となると、部活をやる子とやらない子が出てきます。そのことによって、子どもに体験格差という問題がおこると予想しています。
将来の夢がない子どもたち
子どもたちの大学進学などの進路選択の時に、「あなたが学びたいことは何?」「あなたが将来なりたいものは何?」「あなたが進みたい進路は?」と聞いても、多くの子が「ない」「わからない」と答えます。みなさんはいかがでしたが?大学を選ぶ時に、なりたいものが見つけられていたでしょうか。日本の教育は、画一的であるという批判があり、みんなが同じことを学んでくるのでなかなか自分のやりたいことを見つけにくいという欠点があると思います。
例えば、小学生に「あなたの将来の夢は?」と聞いた時に「ケーキ屋さん」と答えたとしましょう。では、その子はいったいいつからケーキ屋さんになるための活動を始めるのでしょうか?「高校を卒業して専門学校に入ったら」でしょうか?私は、その子が「ケーキ屋さんになりたい」と言ったのならば、「じゃあ、今度の土曜日に一緒にケーキを作ってみない」とすぐにやってみたらいいと思うのです。
別の子が「ゲーム実況ユーチューバーになりたい」と言ったら、大人は「まぁ、そのうちそんな夢は忘れるだろう」と思って放っておくと思います。でも、放っておくのではなくて「よし!さっそく動画を撮って編集して、YouTubeにアップしてみよう!」と言って一緒にやってみたらいいと思うのです。スマホでゲームをしているところを動画で撮って、それを無料の編集アプリで短くカットしてまとめて、しゃべったことをテロップにして入れて、効果音を挿入する。そうすれば、たとえゲーム実況ユーチューバーにならなくても、動画を編集するというスキルがその子に身に付くと思うのです。
このように、子どもがやってみたいと思ったことを、仲間や大人が寄り添って一緒にやっていったら、自分の好きなことや得意なこと、興味があることが見つけられると思うのです。
子どもたちに豊かな体験を
家族の皆さんに、子どもたちのためにやってほしいと思っていることは「体験的な活動に子どもたちを連れ出す」ことです。
そもそも教科書の内容は、先人が長い人類の歴史で自然の中から見つけ出したり、生活の中から創り出したりしたものです。
例えば、「なぜ木は燃えるのか?」。先人は木から「燃える気体」が出ていること、それに「熱」と「酸素」が必要なことを発見しました。例えば、キャンプなどで木を燃やした経験がある子は「なるほど、そうだったのか!」と興味を持って学ぶことができるかもしれません。でも、そういった経験がなく「テストで出るからから覚えなさい」と言われた子には「なんでそんなこと覚えないといけないんだ。木が燃える仕組みを知らなくたって生きていけるし」となってしまうかもしれません。
体験をたくさんしている子は、学習に興味を持てたり、それを学ぶ意味を見いだせたりしやすいと思います。しかし、そういった経験が乏しく、ゲームばかりしていた子は学習に興味がもてなかったり、必要感を感じにくかったりします。
「体験」を子どもたちに提供するには
かつては学校に通わせておけば、いろいろと体験を提供してくれました。しかし、さきほどお話をしたように、今、学校では体験学習が減ってしまっています。
また以前は「子供会」で体験的な活動をしていたこともありましたが、今は保護者の生活スタイルが変わったことで、子供会の活動もどんどん縮小しています。
そんな中で、子どもたちに体験的な活動を経験させるには、保護者が意識的に「体験活動」を探して、その活動に子どもたちを誘って参加することが大切になってきていると思います。
島田市でしたら教育委員会社会教育課が「しまだガンバ」という事業をしています。対象は小学4年〜6年生の36名。5月〜11月に7回の行事が計画され、川遊びや合宿、クラフトなどの体験が用意されています。しかし、原則毎回参加が求められているので、スポーツ少年団などに入っていると参加は難しいです。
ボーイスカウトは体験的な活動を組織的に提供している団体です。ビーバー隊、カブ隊、ボーイ隊など年齢ごとに分かれ、集団活動や竹の子掘り、釣り、キャンプ、ボランティア活動など、多彩な活動をしています。月2回程度活動があるそうです。
私もStudy Like Playingという任意団体をつくり、キャンプ体験教室などを実施しています。3連休の前半2日や夏休み、冬休み、春休みなどにキャンプ教室を実施しています。
以前は農業体験教室やパン作り教室、梅ジュース作り教室、諏訪原城探検なども実施したしたが、収入などの面で活動が維持できなくなって、今はキャンプ体験教室だけ実施しています。
その他でも、島田市民活動センターが夏休み1Dayボランティアなどの体験を提供しています。
昨年までは職場体験も実施していましたが、こちらも財政的な理由で今年は開催されないそうです。
ひだまりカフェがCCキッチンという名前で、月1回くらいのペースで体験教室を開催してきます。焚き火で防災食作りとか、災害リュック作りとか、乾燥野菜の保存食作りなどの活動を提供しています。
金谷地区社協がぽれぽれ堂という駄菓子屋と子どもの居場所を水・土曜日に開催しています。土曜日には体験活動が提供されることもあります。
大井川を舞台にラフティングとかSUPを提供しているダッキーズさんという団体があります。せっかく大井川の流域に住んでいるのだから、大井川を楽しんで欲しい、自然に親しんで欲しいという思いでやっていらっしゃいます。大井川を楽しく、安全に下る、とてもよい体験を提供してくれています。
あそび いいおかお さんという団体さんもあります。無制限あそびというイベントをいろいろな場所で開催しています。子どもたちの安全を配慮した上で、のびのびと無制限に遊ぼうというお考えで活動をされています。
あとは私もわからないところで、時々子ども向けの体験活動が提供されることがあります。とにかく、保護者がアンテナを高く張って、「体験活動」をキャッチして欲しいと思います。
また、家族で公園遊びやハイキング、クラフト体験など積極的に行くようにして欲しいです。
地域で子どもを育む仕組みを
実は、私には一つのアイディアがあります。それは地域全体で子どもを育てる仕組みです。
みんなの居場所ひだまりハウス/放課後ひだまり教室
私が今、挑戦しているのは「みんなの居場所 ひだまりハウス」です。五和小学校から歩いて5分ほどの一軒家を借りて実施しています。1階は誰でも無料で利用することのできる居場所スペースとして開放し、2階は有料ではありますが「放課後ひだまり教室」として「学童保育」のように放課後の子どもたちを預かって宿題を見守り、その宿題をスタッフが丸付けして、わからないところは教えます。
地域型クラブ活動クラブSOJI
さらに、今、こちらも有料ではありますが、地域の人が講師として教えている「プログラミング教室」を火曜日に、「英会話教室」を金曜日に開催しています。親としては「学童保育に預けながらプログラミングや英語の習い事もできる」という感覚です。
地域の人が、子どもが宿題をやるのを見守ってくれたり、宿題が終わった子と一緒に遊んでくれたり、プログラミングや英語を教えてくれているのです。これによって地域の人と子どもとの交流が生まれ、子どもは地域の人に見守られながら育つことができます。地域の人にとっても子どもと関わるという生きがいが生まれるのではないかと思っています。
ボランティアとしてひだまりハウスに来てくれる人を増やしたいと思っていますし、クラブSOJIもプログラミングや英語だけでなくて、手芸やお菓子作りなど、もっとクラブを増やしていきたいと考えています。
学校をみんなの居場所に
みんなに居場所ひだまりハウスのその先には、「学校をみんなの居場所に」したいという構想を考えています。放課後の学校に希望する子どもはそのまま残り、そこに地域の人もやってきて、興味や関心に応じて英語やプログラミングを学んだり、調理をしたり、将棋を指したり、体育館でドッジボールをしたり。ひだまりハウスでやっていることを学校という場所でやったらいいと思うのです。
この構想には、放課後の学校の管理を、学校の先生ではなく市が誰かに委託する必要がありますし、子どもたちの持ち物が紛失しない対策をする必要がありますが、文部科学省も学校と地域の連携を目指す「コミュニティースクール構想」を提唱しているので、実現の可能性はあると思っています。
このような仕組みが整うのは、まだ先のことだとは思いますが、まずは、みなさんがご家庭で、子どもたちに豊かな活動をさせてあげるように意識して育てていただきたいと思います。
ボーイスカウトのこともご紹介くださりありがとうございました。我々も地域に根差し、学校教育と家庭教育だけでは補えない体験活動を通し、地域の子育てに貢献していきます。
共にがんばりましょう!
ボーイスカウト金谷第1団 様
コメントありがとうございます!子どもたちの成長に絶対に必要な「体験」を、組織的・系統的・継続的にどう子どもたちに提供するか。それが大きな課題だと思います。今の日本の「スポーツ少年団」だけでは不十分ですし、私の提供している「キャンプ体験教室」だけでも不十分です。ボーイスカウトさんや様々な団体が、それぞれ形をちょっとずつ変えながら連携していけたらいいですね!