少し前のことになりますが、私(松浦)が骨髄提供してきました。稀有な体験だったので、その経緯を綴ってみたいと思います。
※ 骨髄移植には、ドナー(提供者)とレシピエント(受取者)のマッチングが特定されてはいけないという大原則がありますので、私(松浦)が提供した時期を知ってる方がいらっしゃっても、決してコメントしないでくださいね。
骨髄バンクに登録
教員時代から献血はしていました。骨髄バンクにも関心がありましたが、いざドナーに選ばれると最低4日間は入院しないといけないので、教員時代は登録していませんでした。4日間も学校を空ける訳にはいかないからです。
2019年3月を以て教員を退職し、まもなく骨髄バンクに登録しました。
ドナー候補に
骨髄バンクに登録して1年くらい経った頃、バンクから手紙が届きました。「ドナー候補になりました。骨髄を提供する意思はありますか?」
白血病や重症再生不良性貧血など、骨髄移植が必要な方は、まずは血縁者から骨髄提供が可能か探します。血縁者の中で見つかる確率は30%位だそうです。血縁者にいない場合、骨髄バンクに登録している人の中から白血球型(HLA)が一致している人を探し出します。日本人はHLAが似ている人が多く、国内患者の95%がHLA適合者を見つけることができるようになったそうです。そして、移植に至る患者の割合は約60%だそうです。
スマホからオンラインで「はい」と意思表示をして、とある病院で事前説明と確認検査を受けました。この時に「骨髄提供」と「末梢血幹細胞提供」の2つの方法がありますが、どちらか希望はありますか?と聞かれました。それぞれ採取する方法が違います。私は「どちらの方法でも良い」と答えました。
この時点ではドナー候補者が複数人いて、その中から最適な人を選ぶのだそうです。
この時は、結果から言うと骨髄の提供者にも補欠にも選ばれませんでした。理由は知らされないことになっています。
ただ、この時、偶然にも確認検査の問診に立ち合った研修医さんが小学生時代に担任した子でした。15年ぶりくらいの嬉しい再会でした。
2回目のドナー候補に
しばらくしたら、再びバンクから手紙が届きました。「ドナー候補に選ばれました。骨髄を提供する意思はありますか?」
「はい」と答え、確認検査をし、およそ1か月後に、今回は「ドナーに選ばれた」という連絡がきました。
ドナーに選ばれると
家族の同席の上、最終同意確認が行われます。この時は、妻に半日の有給休暇を取ってもらって出向きました。2人で骨髄バンクのコーディネーターと医師からの説明を聞き、同意書にサインしました。このサインをすると後戻りはできません。
採取前健康診断
その後、骨髄を採取する病院が指定され、担当医が決まります。その病院に行き、採取前健康診断が行われます。定期健診と良く似た健診ですが、私は最大呼気流量(マウスピースを咥えて、思い切り息をはき出す検査)が基準に達しませんでした。喉の扁桃腺が腫れたままになっているのが原因のようです。
「こんなことでドナーになれなかったら、レシピエントさんに申し訳ない」とヒヤリとしましたが、再検査の結果ようやくOKが出ました。
また、骨髄採取は全身麻酔で行うので、麻酔科の医師による問診が行われ、許可を得ました。
自己血採血
私は今回、骨髄を1,200mL提供することになりました。そのため、あらかじめ自分の血液を採血しておき、骨髄採取の際に自己血を輸血するのだそうです。
入院の4週間前と2週間前の2回、病院に行き、自己血を400mLずつ合計800mL採血して保存しておいてもらいました。
レシピエントさんの前処置
移植の1週間前頃になるとレシピエント(受取者)さんは前処置に入るそうです。大量化学療法や全身放射線照射によって、自身の造血幹細胞を壊し、ドナーの造血幹細胞を受入れる準備です。免疫も効かなくするので、無菌室に入るそうです。
脱毛や発熱、極度の倦怠感や吐き気など、壮絶な苦しさだそうです。
ドナーにもしものことがあったら
骨髄ドナー(提供者)にもしものことがあったら、期間にまだ余裕があれば補欠者に連絡がいきます。その余裕がない場合は臍帯血移植になります。赤ちゃんのへその緒の血液です。しかし、その場合は移植の成功率が下がります。
PCR検査
このご時世は新型コロナの流行で、入院前のPCR検査が義務付けられています。私も入院前日にPCR検査を受けに行きました。夕方に陰性(新型コロナに感染していない)という連絡を受けた時には心からホッとしました。これで骨髄を提供できます。
「骨髄ドナーの候補になりました」の手紙から3か月が経っていました。
入院(1日目)
骨髄採取の前日に入院します。入院の説明を受け、個室に案内されました。そこで採血したり、血圧を測ってもらったりし、移植コーディネーターや医師が様子を診に来ます。
病室でパソコン仕事をしたり本を読んだりして過ごし、売店にも行ってみました。夕飯を食べてシャワーを浴び、就寝前に下剤を飲みます。深夜0時以降は絶食で、翌朝6時以降は水も飲んではいけません。体が疲れていないので、あまり眠くなりませんが、たぶん午前2時頃には眠りについたように思います。
採取当日(2日目)
朝7時頃に検温、採血、血圧測定などが行われます。昨夜の下剤が効いてトイレに行きました。8時頃にシャワーを浴び、手術着を着ます。8:20頃、看護師さんが迎えに来てくれて、歩いて手術室まで移動しました。
骨髄採取
手術室でストレッチャーに横になるように指示されます。心電図計などの機材が体に取り付けられます。そして、「今から麻酔を入れますよ。全身がふわっとした感覚になりますよ」と言われ、「はい」と返事をし、ふわっとした感覚になります。「あっ、これか…」と思った瞬間、おそらくすぐに意識がなくなりました。
次の瞬間には「松浦さん、起きてください。終わりましたよ。」と肩を揺すられたような気がします。実際には3時間ほど経っているのですが、麻酔が効いている間は意識がないので、自覚的には一瞬です。ぼぅっとした意識の中で、薄目を開けます。医療スタッフのみなさんが片付けをしているようです。担当医師が「終わりましたよ」と声をかけてくれたので、「無事に採れましたか?」と聞きました。「無事に採れましたよ」との答えがあり、安心しました。
事前説明で聞きますが、骨髄採取は全身麻酔でうつ伏せの状態で行われます。背中から採取用の注射を骨盤まで刺し、骨髄液を少しずつ抜き取ります。ちょっと採取したら、注射針を引き上げて、角度を変えて刺し直し、またちょっとずつ骨髄液を採取するそうです。
結果、背中に合計6か所の注射の刺し跡ができ、骨盤そのものには60~100回ほどの刺し跡ができるそうです。
採取された骨髄液(造血幹細胞)は、その日のうちに輸送され、必ず別の病院でレシピエント(受取者)さんに移植されます。同じ病院内で行われることはありません。万が一にもドナーとレシピエントが特定されないための措置です。
背中にガーゼが当てられ、仰向けでストレッチャーに乗せられた状態で、自分の病室まで運ばれます。この時は、自己血の輸血がまだ続いています。仰向けのままで、寝返りをうってはいけないと指示されます。ひざの曲げ伸ばしはできるので、それでしのぎます。手術中に酸素供給のための管をのどに差し込まれるので、のどがイガイガしますが、まだ水を飲んではいけません。よくは覚えていませんが、たぶん14時くらいだったと思います。16時に医師が診察し、「安静解除」を宣言してくれます。これで立ち上がったり、寝返りをうったり、水を飲んでもよくなります。看護師さんが「水を飲みますか?」と聞いてくれたので、用意しておいた麦茶を飲ませてもらいました。ところが、ちょっと姿勢を変えたら吐き気に襲われて、飲んだ麦茶をもどしてしまいました。
全身麻酔をした後、乗り物酔いのような吐き気に襲われることがあるそうです。私の場合は、少し姿勢を変えようとすると吐き気に襲われました。胃の中は空なので胃液しか出てきませんが、気持ち悪さが深夜まで続きました。
18時過ぎに夕食が運ばれてきましたが、気持ちが悪いので食べる気がしませんでした。結局、この夕飯には手を付けず、下膳してもらいました。
自己血輸血が終わっても、抗生剤などの点滴が続きました。この夜は、看護師さんが2時間おき(?)くらいで点滴の交換に来てくれました。その時は気がつきますが、それ以外の時はうとうととして眠っていたように思います。
採取翌日(3日目)
翌朝、汗びっしょりで気持ち悪いですが、あまり身動きができません。着替えて、朝食を食べました。気持ち悪さは残っていましたが、全部食べられました。9時頃、医師が術痕の確認に来てくれました。問題ないそうです。点滴が終わりました。そのあたりから発熱し始めました。39℃くらいまで上がりました。体が修復を始めたようです。発熱のだるさがあったので、ほとんどベッドに横になって過ごしました。それでも、時々立ち上がり、トイレに行ったり、お茶を取りに行ったりしました。姿勢を変える時に、術痕が痛みますが、我慢できないほどのものではありませんでした。昼食、夕食とも全部食べられました。
退院(4日目)
朝の検温で平熱に戻っていました。朝食を食べました。看護師さんが蒸しタオルを持ってきてくれて、体を拭きました。体が楽になってきて、本も読む気になりました。9時頃に医師の診察を受け、術痕に出血がないことが確認され退院が認められました。
10時頃、退院をしました。外来棟で骨髄バンクのコーディネーターさんが出迎えてくれ、アンケート調査を受けて、帰路に就きました。
バスと電車を乗り継ぎ最寄り駅まで来ると、妻が迎えにきてくれました。昼食を食べ、帰宅しました。疲労感があったので、寝室で休んでいました。この日は自宅でシャワーを浴びることが認められて、翌日からは入浴も認められます。
仕事復帰
翌日から仕事復帰しました。ひだまり教室は体を激しく動かす必要はないので、少し行動を慎重にしながら、無事に過ごすことができました。
レシピエントさんからの手紙
退院の2日後、レシピエント(受取者)さんからの手紙が届きました。ドナーとレシピエントは移植後2年の間に、お互いに2回まで手紙を書くことが認められています。義務ではないので、手紙が来ないこともあるそうです。手紙にはお互いに本人が特定できる情報を書いてはいけないことになっていますが、性別、年代、居住地区(関東地方や東海地方など)は書いてよいことになっています。骨髄バンク事務局へ出し、点検の後に相手の住所に郵送されます。ですから、私(松浦)が相手(レシピエントさん)の住所を知ることはありません。
今回の手紙は移植前に書いたようです。骨髄移植が必要と分かった時の不安や、提供への感謝、移植後には日々を大切に生きていきたいといった決意が書かれていました。私からも、すぐに返事の手紙を書いて、骨髄バンク事務局に送りました。
どこかの誰かの役に立ったのかもしれないと思うと、うれしい気持ちになりました。
術後の痛み
退院の日から、前屈みになったり、座ろうとしたり、寝返りをうったりする時には腰に少し痛みがあります。ですから、少し慎重に行動しようという気になります。しかしながら、全然我慢できない痛みではありませんでした。同じ姿勢を続けている分には、痛みはありませんでした。
7日間くらいで痛みがなくなる人が多いとハンドブックには書かれていましたが、2週間くらいは痛みを感じていました。
2週間後に、ちょっとランニングをしてみました。ゆっくり3km。走っている時は痛みを感じませんでした。家に戻ってきて座ろうとした時に少し負担感を感じましたが、それも我慢できないほどのものではありませんでした。
そして、通常の生活に戻っていきました。
費用負担
骨髄ドナーになると、基本的に費用負担はありません。何度か病院を往復しなければいけませんが、交通費は骨髄バンクが実費を負担してくれます。診察費も入院費も無料です。入院支度金として入院当日に5,000円支給されます。ただし、これらのために仕事を休んだとしても、休業補償金などは出ません。医療保険によっては「骨髄提供のための入院」に保障金が支払われるところもあるそうですが、私が加入していた医療保険にそれはありませんでした。
レシピエントさんの術後
レシピエント(受取者)さんは、提供された骨髄(造血幹細胞)を静脈から点滴により「輸注」するそうです。術後も壮絶な苦しみとの闘いが続くそうで、移植後2週間くらいには拒絶反応なども出てくるそうです。それをステロイド剤などでコントロールしながら、造血幹細胞が骨髄にたどり着き、そこで増殖を始めて白血球が増えてくることを目指します。そして、「生着」がうまくいくと、1~数か月くらいでドナーの血液に置き換わるそうです。
ドナー(提供者)とレシピエント(受取者)が特定されてはならない理由
血縁者からの骨髄提供を除き、骨髄バンクを介して骨髄移植が行われた場合、ドナーとレシピエントが特定されてはいけないというルールがあります。これはトラブルを避けるためです。たとえば「命を救ってくれた恩人にお礼を渡したい」などという金銭の授受があってはなりません。金銭の授受は臓器売買につながる倫理上の危険もあります。あるいは、骨髄移植に伴ってドナーがもつ遺伝的な病気をレシピエントが引き継いでしまうことがあるかもしれません。それに対して損害賠償などを求めるということもあってはなりません。それだけではない、さまざまなトラブルを回避するためにも、ドナーとレシピエントが特定されることがあってはなりません。
骨髄移植のデータ
日本では、骨髄バンクを介した2020年の骨髄移植は1,096件だったそうです。1日平均3件、1か月で約90件の骨髄移植が日本のどこかでおこなわれているという計算になります。私はけっこう多いのだなと思いました。
ドナー登録ができるのは18歳以上~54歳以下で、健康状態が良好な人で、過去に輸血を受けたことがない人などの条件があります。各都道府県の献血ルームなどで登録できます。
2022年現在、日本には約54万人のドナー登録者がいるそうです。ドナー登録をしていても一度も候補にならず55歳を迎えて、提供機会がないまま終了する人もいるそうです。
人生で2回まで
骨髄提供ができるのは、日本の場合、人生で2回までと決められています。私(松浦)が再び骨髄提供できるようになるのは、前回提供の1年後からですが、もしも再びドナーに選ばれたら、もう一度提供しようと思っています。
「いのちのバトンリレー」の講話を開催しませんか?
白血病や血液の病気などについてや骨髄移植についての話を通して、自らの健康や命のかけがえのなさについて考えることができる講話を開催する際に、講師を無料で派遣していただくことができます。
・対象は、主に中学生以上から大学生の年代です。学校や学校以外の団体でも大丈夫です。
・講師の派遣にかかる費用は無料です。
・会場借上げ料、機材・備品等が必要な時は、主催者で負担願います。
・講話開催は基本平日日中(10時~16時の間)授業時間1コマ程度(45~90分)です。
・上記以外の時間を希望する場合は、個別に相談してください。
講話開催を希望される方は、おつなぎできますのでご連絡ください。
骨髄等移殖ドナー助成金【2022.12.9追記】
骨髄を提供した人とその人が働く事業所に、助成金が支給される制度が各地で始まっているそうです。
私もありがたく申請させていただきました。
厚生労働大臣からの感謝状【2022.12.24追記】
家に帰ると、何やら筒状の郵便物が届いていました。
「骨髄バンク」と「感謝状在中」と書かれていました。
開けてみると、骨髄提供に対する厚生労働大臣からの感謝状でした。
このようなものが届くとは知りませんでしたが、ググってみたら提供者全員に届くそうです。
はじめまして、失礼致します。
先日同じく厚生労働大臣より感謝状を頂くことがで
きた者です。この感謝状がどういったものなのか検
索していましたら、こちらを拝見するに至りました
次第です。骨髄提供の経緯、わかりやすく紹介され
ていまして共感するばかりでした。私もほぼ同様な
経緯を体験することができました。術後の体調に関しては、これは本当に個人差なのですね、私は
術後の痛みや体調不良等を感じることはありません
でした。入院中の病院から提供される食事がとても
おいしかったと回想するばかりです。提供にあたり
ましては最終同意後の自身の体調管理には細心の
注意を図り、そして緊張しておりました。コロナ、
風邪、怪我、いずれにも自身の体調不全により提供
が中断してはならないと、プレッシャーに感じた
ものでした。幸い、いずれも問題なく提供に至り
なんともいえない達成感を経験することができまし
た。レシピエントさんの術後の経過を知り得ること
はできませんが、無事健康を取り戻せていることを
願い祈るばかりです。長々とコメントさせていただ
きましたが、こちらの記事はこれからドナー登録を
されようとするかたに、大変参考になるものと思い
ます。ドナー登録者が増え、助かる命が増します
ことを祈ります。私も2回目のお声がかかれば、
喜んで応じていきたいですね。
失礼致しました。ありがとうございました。
ネズミ様
コメントありがとうございます!
骨髄提供が無事に完遂できて良かったですね
術後は私よりも軽かっのですね。それも良かったですね
これで誰かの人生がつながるかもしれないと思えば、私の骨髄でよければどなたにでも差し上げたいですよね
ドナー候補に選ばれて少し不安に感じて検索して辿り着いてます。色々と詳しく初期検査から術後の状況まで書かれており、とても参考になりました。ありがとうございます。
とおりがかり様
不安になる気持ち、わかります!私も「喜んで提供します!」とは言ったものの、内心不安はありました。提供直後にレシピエントさんから手紙がありましたが、その後1年半ほど手紙はなく、今、どうされているか気になったりもしますが、良い経験をさせていただいたと思っております。
はじめまして、検索からこちらに辿り着きました。
骨髄バンクに登録しようか迷っていたところでした。
(ものすごく安易でオタクな思考なのですが、骨髄バンクのCMの声優さんが15年以上大好きで、そんな理由で登録して救えるなら私らしくていいかな…とも思い調べていました)
良かった話ばかりではなく辛かった様子なども書いてあり、とても参考になりました。ありがとうございます。
ゆずさん、コメントありがとうございます!ぜひ、ご登録ご検討ください。私は、もう一度該当したら、きっとまた提供すると思います!