2023年5月26日(金)、静岡東高等学校の探究的な学習の時間の講師の一人に選んでいただきました。昨年度に続き2回目です。

今年度は「ジェンダー」「デザイン・アート」「まちづくり」「環境」「格差」「国際」「防災」「教育・子ども」という8テーマの中で「教育・子ども」を担当させていただきました。

先日、生徒さんの感想をお届けいただきましたが、みなさん、とてもよい感想を書いてくださいました。

以下、パワーポイント資料と発表原稿です。お時間がありましたら、御高覧ください。

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初めまして。昨年に続きまして静岡東高等学校の探究学習におじゃまさせていただきました。ここには「教育や子育て」に関心があるという人が集まっていると伺っています。今日は、今、私が静岡県島田市で取り組んでいることを紹介させていただき、みなさんのこれからの学習の参考にしていただければと思っています。たぶん、今日のお話はみなさんが関心のある「問い」とはちょっと違う話をするかもしれません。なぜなら、自分の関心のあるテーマは自分で調べていただきたいからです。私がこれからお話することは、それをやっている人はあまりいないのではないかというお話です。たぶん、それが理由で、コーディネーターの方が私にこの役割をくださったと思うので、そのお話をしたいと思います。

まずは自己紹介をさせていただきます。名前は松浦 静治せいじと申します。1974年6月21日生まれの48歳です。新潟県長岡市寺泊町てらどまりまちというところで生まれました。1997年、新潟大学教育学部小学校数学科というところを卒業して、2000年まで、新潟県内の小・中学校で講師として働いていました。そして、2001年、結婚を機に静岡県に引っ越してきました。結婚した相手が島田市の人だったということです。その後、静岡県内の小学校で教諭として勤務しました。2009年4月~2013年3月まで吉田町教育委員会社会教育課というところに4年間出向いたしました。その後、2013年4月から小学校の教諭に復帰しましたが、2019年3月、「学校だけでは子どもをしっかりと育てることはできない。地域で子どもを育てる仕組みをつくりたい」と思って、44歳で早期退職しました。その後、Study Like Playingという団体を結成して、新しい活動を始めました。

もう少し自己紹介を続けさせていただきますけれども、家族構成は妻と娘が2人います。大学3年生と大学2年生です。趣味はキャンプ、焚き火、ランニング。フルマラソンを4時間40分39秒で完走したことがあります。タイムとしてはそんない早くはありません。そして、登山、富士山や槍ヶ岳、甲斐駒ヶ岳などという山に登ったことがあります。そして、新潟県出身だといいましたが、スキーやスノーボードも好きです。そして、料理や釣りもします。

もっている資格は、小学校教員免許と、中学校と高校の数学の教員免許、社会教育主事の資格と中型免許、英検3級です。この英検3級というのは、レベルで言ったら「中学校卒業程度」ですので、たいしたレベルではありません。しかし、後で出てきますが、こんな私が今、英語の講師をしています。

私が、学校の教員を辞めた訳ですけれども、「学校は勉強を教えるけれど、生き方を教えていない」ということです。みなさんは違うかもしれませんが、高校を卒業したらどんな大学に行きたいか、あるいは就職したいのか?大人はきっと聞くと思うのです。「あなたの好きなことは何?」「やりたいことは何?」「なりたいものは何?」と。しかし、今の日本は、多くの子が「別にない」「好きなことは特にない。強いてあげればゲーム?」とか「やりたいことは特にない。仕事は厳しくないけれど給料がいいっていう仕事に就きたい」という人が多いのではないでしょうか。日本の学校教育を通ってきても、自分の好きなことも、なりたい自分も思い描けないという状況はまずいと思うのです。

また、英語が小学校から始まったりして、机の上での学習が増えてしまっています。全国学力テストなどでも、全国の中で静岡県の順位が低いということで、テスト前に過去問題を何度もやらせるということも行われています。その影響を受けて、遠足などの体験的な活動がどんどん減らされてしまっています。キャンプなども、昔は学校でやっていたところもありますが、夜中に不審者がテントに侵入したらどうするんだ、とか、屋外で調理しても衛生的なのか、と心配する保護者がいたりして、学校行事としてはやりにくくなっています。

また、なんでもかんでも学校にやってもらおうという考えもあります。お年寄りと交流するのも、障がい者と交流するのも、学校でやってもらおうという雰囲気があると思いませんか?

一方で、学校の先生たちは忙しい。残業時間が過労死ラインを超えていて、ブラックな職場だと言われて、教員になりたいという人がどんどん減っています。だから、学校でやっていることをどんどん地域や家庭でやってもらおう、という意見もあります。部活動も、学校でやるのではなく、地域でやってもらおうという意見もあります。しかし、今現在は、それを受け止める仕組みが地域にも家庭にもありません。このまま、学校がいろんなものを手放して、地域や学校に任せます!と宣言しても、結局、損をするのは放り出された子どもたちです。

ですから、私は、地域で子どもたちを育む新しい仕組みを作りたいと思って、教員を早期退職しました。

これは、先ほど自己紹介でしたように、吉田町教育委員会社会教育課に出向したという経験も大きく影響していると思います。

私が、学校の教諭を退職して、この4月で4年が経過しました。その間に、私が作ってきたことを紹介したいと思います。

退職した理由でお話したように、地域での学びの形を作りたいと思ってやってきました。この4年でやりたいと思っていたことの骨格ができてきたと思っています。しかし、新型コロナの影響を受けて、これまでは人数を制限していましたので、まだか細い骨といったところです。これからは、コロナの警戒も解除されつつありますので、筋肉を丈夫にして、太くて力強い取組みにしていきたいと思っています。 それでは、どんな取組みをしているのか、一つずつ紹介させていただきます。

一つ目は「放課後ひだまり教室」という取組みです。これは、島田市にある障がい者のためのグループホーム陽だまりというところで行っています。このグループホームには知的障がいのある方が10人住んでいて、スタッフさんがお世話をしている施設なのですが、ここを運営している人たちが「障がい者だけでなく、みんなが利用できる施設にしたい」ということで、誰でも利用できるカフェを開設して、子ども食堂も実施していました。それを知った私が、「何かお手伝いできることはないですか?」と言ったところ、「もっと子どもたちが来てくれたらうれしい」ということで、「それならば、子どもたちの宿題を見てあげたら、きっとたくさんの子どもたちが来るようになりますよ」ということで、始めました。毎日15人~20人くらいの子どもたちが来て宿題をしているのを、地域のボランティアさんが見守ってくれています。

コロナの期間は交流を控えていましたが、コロナ前は、入居している障がい者の方との交流もありました。ある方で、何か不安なことがあるとパニックになってスリッパを投げるという方がいらっしゃいました。それを見た子どもたちは「え~、何?こわい」という表情をしていました。そこで、私は子どもたちを呼び集めて、「あの人はパニックになってスリッパを投げるけれど、実は投げる方向を考えているから」と話をしました。すると、しばらくしてまたパニックになった時に、子どもたちが「わかった!」と言ってきたのです。「今ね、スリッパを投げようとして、ガラスの方だったから、投げるのをやめて、ソファーの方に投げた」と。そこで私は、「そうだよ。あの人はパニックになっても、ちゃんと投げる方向を考えているから、ぜったい人がいる方には投げないから大丈夫だよ」と言ったら、子どもたちは落ち着いたようでした。それからまた、その方がパニックになったときに、当時小学校4年生の女の子でしたけれども、その人のところへ行って「どうした?何かあった?大丈夫だよ」と声をかけたんですね。ふだんから障がいのある方と接していれば、「怖い!」という感覚はなくなって、自然な形の交流ができるようになるのですね。

また、地域の方が、宿題が終わった子に、針と糸でお手玉づくりを一緒にやってくれたり、将棋をやってくれたりしました。プランターで植物を育てるようなミニ農業体験をしたり、火をおこして焼き芋を作ったりする体験活動も取り入れるようにしています。また、北海道の寺子屋さんとZOOMをつないで、オンラインで交流したりもしています。

保護者からの相談も受けることがあります。担任の先生から「この子は勉強がわかっていないようだから、特別支援学級に移った方がよいのではないでしょうか」と言われたと、お母さんから相談されました。私は「じゃあ、しばらく放課後ひだまり教室に通わせてみてください」ということで、その子の宿題を見守りました。確かに、来たばかりのころは勉強が分かっていない様子でしたが、丁寧に宿題を見てあげていたら、この春の面談で「勉強も理解できているみたいなので、特別支援学級に移らなくても大丈夫そうですね」と言われたと、うれしそうに話してくれました。そのほかにも、「うちの子はおちつきがなくて」とか「算数がわかっていなくて」という子を預かって、勉強を見てあげています。

夏休み、冬休み、春休みの長期休みや、新型コロナの休校中は、朝の8時から子どもを預かっています。宿題をやるのを地域ボランティアの方と見守っています。時間がたくさんあるので、自由研究にも挑戦します。写真は、ふかふかパンケーキを作りたいということで、自分たちでタブレットパソコンで作り方を調べ、材料を買ってきて実際に作っているところです。また、地域でのレクリエーション大会にも参加させていただきました。子ども食堂をやっているひだまりカフェからの無料昼食提供も、夏休みの間に4回実施しました。また、8月は日本にとっては戦争で原子爆弾が投下されて、8月15日に降伏して終戦した特別な月ということで、戦争に関する学習もしました。

2022年の9月からは、不登校の子の居場所を作ろうと、フリースクールひだまり教室を始めました。放課後ひだまり教室をしている部屋で、学校に行けない・行かない子たちを平日の昼間に受入れています。ここでは学校の勉強に限らず、自分の興味があることを学んで良い場にしようと思っています。ひだまりベイスというのは、フリースクールとして毎日こっちに通う訳ではないけれど、学校に行けない時にいられるように、ちょこっと利用ができるようにしています。

日本の学校は、いわゆる普通の学校に行けないとなると、その他の選択肢がほとんどありません。みんなに見つからないように、家でひっそりとして過ごしていないといけないという雰囲気があります。しかし、私は、もっといろんな形態の学びの場があった方がよいと思っています。自然体験の中で学んでいく学校があったらよいと思いますし、もっとパソコンなどのICT機器を使う学校があってもよいと思いますし、外国語で勉強をする学校なんかももっと選べたらよいと思うのです。オルタナティブとは「選択が可能な」という意味です。

週末の学校が休みの日には、いろいろな体験活動を提供しています。私が学校の教諭を退職した理由でもお話したように、子どもたちにさまざまな体験の機会をちゃんと提供する仕組みを作りたいと思っているからです。

キャンプの中には、子どもたちの成長にとって、とても大切な要素が詰まっていると思っています。テントを張って自分の寝床を確保すること、火をおこして体を温めたり、料理を作ったりすること。また、花火をして遊んで炎との距離感を知ること。川遊びや森遊びをして、自然にふれること。一緒にキャンプをしている人と役割分担して協働して過ごすこと。こういう大切なことがキャンプにはたくさんあると思うのです。

学校では安全性や衛生面から、みんな一律にキャンプをするという訳にはいかなくなってきていますが、地域でキャンプ教室を開催して、そこに参加させたいという意思のある親と子どもが申し込んでくれば問題ないと思うのです。

農業体験教室も行っています。今の子どもたちは「消費」に偏って生活しています。ふだんの生活の中で何かを生産するという機会がほとんどありません。お米や野菜を作る大変さを知りません。その結果、食べるか食べないかの判断基準がおいしいかおいしくないかだけになってしまって、食料を生産した人たちの苦労も、良いものを消費者に届けたいという思いも知らないまま、平気で嫌いなものを捨てるという人がとても多いです。学校で「いただきます」をしてきたと思いますが、その「いただきます」には、いったいどれくらいの気持ちが入って言っているのでしょうか。私は、種まきや田植え体験をしたり、収穫して根っこをとったり、エダマメを枝から外したりして大変さを経験してもらったり、収穫したトウモロコシを、その場でゆでて食べたりしておいしさを実感してもらうことで、食べ物に対する考え方を育てていきたいと思っています。

今のこの時期は梅の実がとれる時期ですが、そんなことを気にしている子どもはほとんどいないかもしれません。でも、自然の恵みである梅の実を、梅干しにしたり梅ジュースにしたりすることで、長期間にわたってそれを保存し、食べたり飲んだりすることができます。その他、そば打ち、みそ作り、パン作り、ミニ門松作り、松ぼっくりを使ったクリスマス飾り作りなどをやっています。みなさんは知っていると思いますが、「みそ」が何からできているか知らない子もたくさんいます。大豆と米と麹と塩で作るのですが、製品として売っているみそしか知らないので、それが何からできているのかがわからないのです。

島田市には徳川家康と武田信玄・勝頼が争った諏訪原城の跡があります。どうだんつつじのきれいなどうだん原という場所や、国の天然記念物の大杉がある千葉山があります。そういった場所を子どもたちと探検するイベントを行っています。そこについて詳しい人に解説してもらうと、その場所のすごさがより強く感じられることがあります。このような機会を経験することで、自分のふるさとに対する愛着を育てて欲しいと思っています。

「将来の夢がない」とか「自分の好きなことがわからない」というのは、実は無理もないことなのです。子どもたちは、みんな同じ教科書を渡されて、その中身をどれだけ暗記したかを競わされて、学校から帰ってきたらまず宿題で、早くお風呂に入って寝なさいでは、自分の好きなことを探させてもらったことも、それを磨かせてもらったこともないのです。ですから、私は、子どもたちが自分の好きなことを探して、それを磨くことができる場を作りたいと思っています。

それが地域型クラブ活動です。これは、放課後ひだまり教室とも連動していて、子どもは学校が終わると歩いて放課後ひだまり教室までやってきます。そして、希望者は時間になったら英語クラブに参加したり、プログラミングクラブに参加したりします。そして、クラブが終わったらまた放課後ひだまり教室に戻って、おうちの人が迎えにくるのを待ちます。保護者からしたら、宿題も終わって、習い事もできているという状態です。親が送り迎えをしなくてもそれが終わっているのです。

今はまだ、英語クラブとプログラミングクラブの2つですが、このクラブをもっと増やしていきたいと思っています。地域の人で、お菓子作りの好きな人が講師になって、子どもを集めてお菓子作りクラブを作るとか、木工クラブを作るとか、歴史クラブや鉄道クラブなんていうのも良いと思います。

また、中学校のクラブ活動を学校でやるのではなく、地域でやってもらおうという動きがあります。そうなった時の受け皿になれたらと思っています。

今までの話の中に何度か出てきましたが、ひだまりカフェは、障がい者のグループホーム陽だまりの中にある、誰でも利用できるカフェです。このカフェは、この施設を障がい者だけのものにしないために作られました。そして、子ども食堂も行っており、子どもが来たら無料でパンセットやおにぎりセットなどが食べられます。また、この取り組みに賛同してくださっている方がお野菜やパンを無料で提供してくださっています。クリスマスなどには交流イベントを開催して、障がい者も子どもの地域の人も一緒になって楽しい時間を過ごしています。

このように、私は学校の教諭を退職して、地域での新しい学びの形を作ろうとしています。

子どもをきっかけに、地域の人がつながる仕組みを作っています。今まで学校に依存していた子育てや教育を、地域で担う仕組みを作っています。地域には子どものために何かしたいと思っている人が実はたくさんいます。登校する子どもたちを見守るために、毎朝交差点に立ってくださっている人がたくさんいるわけです。そのような人たちに活躍の場を提供したいと思っています。それができれば、地域のみんなで子どもを育てる環境が醸成できると思うのです。その中で、子どもたちは教科書の知識を詰め込むだめでなく、自分の好きなことを探し、それを磨き、自分の生き方を見つけていける、そんな社会を作っていきたいと思っています。

ご清聴ありがとうございました。

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